日野市立病院ホームページトップ > 診療部門のご案内 > 病理診断科
病理診断科は,患者さんを直接診察したり治療したりする科ではありません。 病理診断科の業務は,患者さんから得られた臓器・組織・細胞に対して,顕微鏡を用いて病理診断を付けることです.具体的な内容は次のように分けられます(後半で詳しく述べます)
これらの業務を,医師免許証を有する病理診断医(常勤1名,非常勤1名)と,臨床検査技師の国家資格を有する技師(常勤3名)が協力して行っています.
業務遂行に当たっては,「より迅速に,より正確に,より丁寧に」をモットーにしています.
その他,臨床病理カンファレンス(Clinicopathological conference, CPC)などのカンファレンスを行い,医師の卒後教育,医療の質の向上,内部医療監査の役割も負っています.
1)に記載した診断業務が病理診断で,それを専門に行う医師が病理診断医(病理医ともいいます),それを専門に行う部門が病理診断科(病理科ともいいます)です.
病理診断は,ずっと昔は臨床検査科の中で行われ,診療報酬上も生化学検査や細菌検査などと同様に検体検査の一つに位置付けられていました.しかし,1994年には検体検査から外れて「病理学的検査」と呼ばれるようになり,さらに,2008年には病理診断は検査から完全に独立し,放射線診断と並ぶ医師による診断行為として認められるようになりました(下記の表参照).したがって,現在では,患者さんに渡される診療報酬明細書にも「病理診断料」が明記されています.
また,同じ2008年には,医療法上標榜科の一つとして病理診断科が正式に認められ,病理医には病院で働く医師の一人として,ようやく確固たる足場が与えられました.したがって,現在では多くの病院の建物やホームページ上で,「病理診断科」や「病理科」の表示がみかけられるようになりました.
参考:医科診療報酬上の病理診断の位置づけの変遷
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画像診断 | 画像診断 | 画像診断(第4部) |
病理診断(第13部) |
体のごく一部を採取して,顕微鏡を使ってその組織に対して診断をつけることを生検(バイオプシー)といいます.胃や腸の内視鏡検査の際に粘膜の一部を取って診断するのはその例です.
目的は,診療のスタートとして病名を決定することです.たとえば,粘膜病変が胃炎かガンかの判定をします.どちらかによって治療方針が全く異なりますから,極めて重要です.それを正確に決定することができるのが病理診断なのです.乳腺のしこりがガンなのか良性腫瘍なのかも同様です.このような,病変が良性か悪性かの判定のほか,悪性であればどんな種類のガンなのかという診断も行います.現在では,ガンの種類によっても治療方針が異なってきます.また,腫瘍ではなく,その臓器に炎症があるのかないのか,炎症の性格や程度はどれくらいか,という診断もします.腸炎の判定などです.
対象部位は頭のてっぺんからつま先まで全身に及びます.
組織を採取する方法には,内視鏡の際に生検鉗子というもので摘み取る,皮膚表面から針を刺して吸引して取ってくる(針生検),メスで一部を切り取ってくる,などがあります.
取られた組織は,ホルマリン入りの小さな容器に入れられた状態で病理診断科に届けられ,検査技師によって顕微鏡標本が作製され,病理医によって診断されます.そして,病理診断書が電子カルテに送られます.
手術で切除された組織もすべて病理診断科に運ばれ,顕微鏡診断されます.
その目的は,手術前の臨床診断の確認のほか,病変の進展度や病変がとりきれたかどうかの判定があります.たとえば,癌であればその進行の程度やリンパ節転移の有無などを診断します.さらに,手術前に臨床診断されていた病変以外の隠れた病変の診断も重要な目的の一つです.たとえば,臨床診断が胆石症であっても,胆石症のほかに胆嚢ガンが潜んでいる可能性があるからです.したがって,手術組織の病理診断は,術後の治療方針の決定に重要な意味を持っています.
対象は摘出されたものすべてです.
切除された組織は,ホルマリン入りの大きな容器に入れられた状態で,病理診断科に届けられます.そして,どの部分を顕微鏡観察する必要があるかを判断して,顕微鏡標本用に切ることを切り出しといい,病理医と検査技師が協力して行います.切り出された組織は,検査技師によって顕微鏡標本が作製され,病理医によって診断されます.
参考:顕微鏡標本の作製法
通常は生検で病理診断をつけてから手術されることになりますが,手術の最中に診断をつける必要がある場合もあります.たとえば,乳ガンの手術では,術中にリンパ節転移の有無を調べたり,切除した組織の切断面にまでガンがきていないかを調べたりします.もし,切断面にガンが達していれば,取り残しがあることになるので,さらにもっと広く切除する必要があるからです.
対象となることの多い疾患として,乳ガンや胃ガンがあります.
手術室から,生の臓器が病理診断科に届けられると,病理医は即座にどの部分を判定するかを見定めて,切り出しをし,検査技師は凍結切片を作成し,染色します.出来上がったプレパラートを受け取った病理医は急いで診断し,手術室にインターホンで連絡します.
参考:凍結切片の作成方法
やわらかい生の組織はそのままでは薄く切れないし,かといって先に示したパラフィン切片作成には時間がかかるので,早く診断するためには組織を瞬間的に凍らせて固め,それをクリオスタットという機械で薄く切る必要があります.その切片を凍結切片といいます.クリオスタットの中は-20℃以下に維持されています.
生検組織や手術組織の組織診断は,細胞の集合体であるかたまりとしての組織を対象とするものですが,これに対して,ばらばらの状態の細胞に対して診断を行うのが細胞診です.細胞診は組織診断と比べて診断精度がやや劣るものの,広い範囲の情報を得ることができること,また,組織診断は患者さんにかける負担が大きいのに対して,細胞診はそれが少ないという利点があります.したがって,組織診断と細胞診は上手に使い分ける必要があります.
主な目的はガン検診や腫瘤状病変の良悪の判定などです.ガン検診の例としては,子宮頸部の粘液中の細胞を調べる子宮ガン検診や,喀痰(かくたん)中の細胞を調べる肺ガン検診が代表的です.腫瘤状病変の良悪の判定の例としては,甲状腺の腫瘤などがあります.そのほか,体腔液(胸水,腹水)や尿,胆汁などの液体中に悪性細胞ないかを調べることも細胞診の重要な責務で,頻繁に行われています.
細胞採取の方法としては,液状のものは吸引された液体を遠心して細胞を集めたり,粘膜表面からはブラシなどでこすりとってきたものをそのままガラスに塗布したりして固定し,染色し(通常はパパニコロー染色),顕微鏡標本が作製されます.
出来上がった顕微鏡標本(プレパラート)に対して,まずくまなく観察し,異常細胞がないか探します.この仕事は,臨床検査技師のうち特に細胞検査師の資格を有する者によって行われます.この過程をスクリーニングといいます.細胞検査士が拾い上げた異常細胞を病理医がチェックして,最終的に細胞診断報告書を作成し,カルテに送ります.
残念ながら病院で患者さんが亡くなられ,ご家族から了承が得られた場合に病理解剖が行われることがあります.これを実際に執り行うのは病理診断科の病理医と検査技師です.主治医はその場に立ち会い,病理医と議論しながら一部始終を見守ります.
病理解剖の目的は,患者さんの全身の疾患に関して最終的な評価を行うことです.すなわち,生前の臨床診断の適切性の判定,治療効果や治療法選択の適否の判定,臨床的に見逃されていた潜在病変の発見,直接死因の究明,などを行います.
病理解剖はご遺体にメスを入れる行為ですが,スタッフは厳粛な気持ちで真摯に取り組んでいます.病理解剖の法的根拠としては,死体解剖保存法(昭和24年)があり,そこには,「病理解剖は,病死した患者の死因又は病因及び病態を解明するための最終的な検討手段としてその重要性は高く,また,医学研究の進歩と公衆衛生の向上の観点からも不可欠な行為であり,法律上病理解剖は,その目的の正当性,手段,方法の妥当性により刑法第190条の死体損壊罪の適用を免れるものである.」と書かれています.
手順としては,主治医がご遺族へ病理解剖の依頼をし,ご承諾が得られると,こんどは承諾書とともに病理診断科に病理解剖の依頼が来ます.主治医と病理医が打ち合わせをしたのちに,解剖室で病理医の執刀のもとに解剖が開始されます.臨床検査技師はこれを介助します.各臓器を肉眼的に観察したのちに,組織の一部を採取させていただき,これをホルマリンで固定して保存します.ご遺体は解剖開始からおよそ3時間後にはご家族のもとにお返しし,一旦は終了します.しかし,これで病理解剖がすべて完了したわけではなく,病理診断科では,日を改めてホルマリン固定された組織から顕微鏡標本を作製して詳細に観察し,すべての所見を総合して,最終的な病理解剖診断書を作成し,主治医に報告しています.
また,臨床病理カンファレンス(clinicopathological conference,略してCPC)を開催して,病院職員が集まり,患者さんの最初の症状から,行われた検査,診断,治療,そして亡くなるまでの全過程を振り返って,診療の妥当性や不備を議論しています.
病理医や病理診断についてもう少しお知りになりたい方は、下記"誰も知らない「病理医」の話"(文芸春秋1991年7月号より、出版社の許可を得て掲載)をご覧ください。
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